彼の甘い包囲網
声のした方向を見ると。


スラリとした百八十センチメートルを超える長身に。

長い足。

小さな顔に。

見惚れる程に綺麗な紅茶色の二重の瞳。

通った鼻筋。

凄まじく整った容貌。



四年前とは違う、大人びた表情を浮かべた奏多がそこにいた。



「ただいま、楓」


ドクンッと心臓が跳ねた。

ヒュッと喉が鳴って。

呼吸が止まる。




呆然と立ち竦む私との距離をあっという間に詰めて。

眩しそうに綺麗な瞳を細めて奏多が私に声をかけた。

非の打ちどころのない秀麗な顔立ち。

細身のブラックジーンズ、白いシャツに薄いグレーのロングカーディガンを然り気無く羽織って。

奏多は長身を屈めて、私の顔を覗き込んだ。

口角を少し上げた微笑みから漂う壮絶な色気。



キャアアッと周囲の女子達の声が遠くの方で聞こえる。

通りすぎる学生があからさまな視線を投げつける。



「楓?」



怪訝な顔をする奏多。



私の頭は真っ白になっていた。

声が出ない。

周囲の喧騒も耳に入らない。



言葉にできない気持ちが胸の奥から込み上げて。

足元から崩れ落ちそうだった。
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