彼の甘い包囲網
微笑んでいた奏多が驚いた顔をして。

焦げ茶色の瞳が一瞬暗く翳る。

その瞳を見返した瞬間。


私は奏多の腕の中にいた。

懐かしいシトラスの香りが私を包んだ。

その香りと。

私を抱き締める長い腕。

頬にあたる硬い胸の感触が。

奏多の存在を私に教えてくれた。



「そんな顔、すんな。
……ここにいる」



胸が痛くなる程の切ない声に。

言葉が出ない。



「かな……た」



必死に絞り出した声はガラガラだった。

抱き締められた腕にギュッと力がこもる。



ドクン、ドクン、ドクン。


高鳴る鼓動は。

私のものなのか。

奏多のものなのか。

わからなかった。


ここは校門前なのに、とか。

こんな風に抱き締められていいわけがない、とか。

いつもなら冷静に判断ができる私は。

この時はいなかった。

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