彼の甘い包囲網
「……私」

「寂しいんだね、楓ちゃん」


同い年の筈なのに、随分と大人びた表情で拓くんが微笑んだ。

「そんな泣き出しそうな顔をしてたらバレバレよ。
早く帰って電話しなさい。
素直に寂しいって言ったら?
蜂谷さんのことだから、すっ飛んで来てくれるわよ」

「ま、待って……で、でも会ってどうするの……」

「会ったら自然とわかるよ。
俺もいつもそう」

紗也の頭を引き寄せて拓くんが笑った。

「……拓!」

真っ赤になる紗也が可愛らしい。

二人の姿に胸が温かくなった。


「……ありがとう、二人とも」


デートをして帰る、という二人と駅前で別れて私は家路を急いだ。

早く、早く。

自然と足が速くなる。


奏多に電話をしよう。


道中で電話をしたい気持ちを必死で抑えながら。

自分に言い聞かせた。

首にまとわりつく、汗でベタついた髪も。

頭皮をジリジリやく日差しも気にせずに。

乱暴に脱いだカーディンを鞄に突っ込む。


ただ、今は。

理由や言い訳もなく、奏多の声が聞きたかった。

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