彼の甘い包囲網
マンションの前に着くと。
大きな引っ越しトラックが停まっていた。
青いプラスチックカバーがオートロックのガラスドアを覆っている。
グレーの床にも同じような養生がされている。
引っ越し業者さんが大きな荷物を抱えて行き来している。
暑い日に大変だな、と搬入作業を横目で見つつ、エントランスをくぐろうとした時。
「あなたが楓ちゃんね?!」
甲高い女性の声がして。
ギュッといきなり正面から抱き締められた。
ふにっ、と身体が柔らかく包まれる。
「きゃぁっ可愛い!
肌も白いわねぇ、スベスベ!
髪も艶々で綺麗!」
え、と思う間もなく一気に捲し立てられ。
クイッと顎を両手で包まれて上を向かされた。
フワリ、と花のような香りが立ちのぼる。
眼前に佇む、見惚れてしまいそうに綺麗なボブショートヘアの女性。
スラッとした長身にダメージ加工デニムと白いシャツというシンプルな装いなのに何処となく色気が漂う。
「まあ、お人形さんみたいに可憐!
……アイツが執着するわけね……」
「……あ、あのっ」
「千春!」
鋭い声が聞こえて。
私はベリッと目の前の女性から剥がされて、背後から抱きすくめられた。
引き剥がす腕の力は乱暴なのに、私を受け止める胸はどこまでも優しい。
瞬時に香るシトラス。
抱き締められた肌がジワリと粟立つ。
ドキン、と心臓が大きな音をたてた。
……奏多。
顔を見なくてもわかる。
この腕は奏多だ。
絶対に、間違えない。
大きな引っ越しトラックが停まっていた。
青いプラスチックカバーがオートロックのガラスドアを覆っている。
グレーの床にも同じような養生がされている。
引っ越し業者さんが大きな荷物を抱えて行き来している。
暑い日に大変だな、と搬入作業を横目で見つつ、エントランスをくぐろうとした時。
「あなたが楓ちゃんね?!」
甲高い女性の声がして。
ギュッといきなり正面から抱き締められた。
ふにっ、と身体が柔らかく包まれる。
「きゃぁっ可愛い!
肌も白いわねぇ、スベスベ!
髪も艶々で綺麗!」
え、と思う間もなく一気に捲し立てられ。
クイッと顎を両手で包まれて上を向かされた。
フワリ、と花のような香りが立ちのぼる。
眼前に佇む、見惚れてしまいそうに綺麗なボブショートヘアの女性。
スラッとした長身にダメージ加工デニムと白いシャツというシンプルな装いなのに何処となく色気が漂う。
「まあ、お人形さんみたいに可憐!
……アイツが執着するわけね……」
「……あ、あのっ」
「千春!」
鋭い声が聞こえて。
私はベリッと目の前の女性から剥がされて、背後から抱きすくめられた。
引き剥がす腕の力は乱暴なのに、私を受け止める胸はどこまでも優しい。
瞬時に香るシトラス。
抱き締められた肌がジワリと粟立つ。
ドキン、と心臓が大きな音をたてた。
……奏多。
顔を見なくてもわかる。
この腕は奏多だ。
絶対に、間違えない。