彼の甘い包囲網
「……折角会えたのに、もう帰るの?」

ガチャン。

眼前でドアが閉まって玄関に引き込まれた。

訪れる静寂。

首筋にかかる奏多の息。

鼓膜を震わせる低音に身体が痺れる。

お腹にまわった腕はガッチリと私を捕らえる。

ドクンッと心臓が一際大きな音をたてる。


「……か、帰るよ!
用事は済んだ……」


言うか言わないかの間に。

顎に指をかけられて。

唇が塞がれた。


「……ちょっ……!」


抵抗の言葉もスルリと奏多に呑み込まれて。

唇を味わうかのようにゆっくりとキスされた。

カアアッと一気に身体が熱を帯びる。

ゾクリと背中が粟立つ。

チュ、と最後に唇を吸って。

奏多が私の唇を解放した。


「ゴチソウサマ」


ペロリ、と自身の唇を親指でなぞる奏多は魅惑的で。

発する色香が私の言葉を簡単に奪う。


「そんな可愛い顔をするお前が悪い。
ただでさえ、最近会えてなかったのに」


キュウッと胸が詰まるような台詞を易々と口にして奏多は私のうなじに唇を寄せる。

ああ、もう本当に。

奏多のペースに振り回されてばかりで、どうしていいかわからない。

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