彼の甘い包囲網
「も、な、何で!
いつもこんなこと……」


引っ越してきてから。

奏多は当たり前のように私の生活に侵食して。

我が物顔で私に触れてくる。

全力で抵抗しているのに、お構い無しだ。


「何でって、お前は俺のものだから」


意味不明な独占欲で私の思考を絡めとる。


「そんなこと、ない!」


必死で反抗しても。


「そんなに真っ赤なのに?」


からかうようにクスクス笑われて。

小さなキスをたくさん落とされる。

奏多の部屋は奏多の匂いが充満していて。

私の体温を否応なく上げる。


「だから、絶対離さない」


何がだから、なのか。

グチャグチャな意思表示はいつも私の気持ちを乱す。

奏多がどんな気持ちで私に触れているのかわからない。

聞きたいのに聞けない。

見上げる奏多の妖艶な瞳はいつも余裕で。

陥落する私を楽しそうに見る。


からかわれているだけ。

しっかりしなきゃ。


言い聞かせているのに。

込み上げる想いに。

流されそうになるのを、勘違いしそうになるのを。

必死で踏みとどめている私の気持ちなんて。

奏多には絶対にわからない。
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