彼の甘い包囲網
「あらっ美味しそうな桃!
嬉しいわ。
わざわざありがとう、奏多くん」

満面の笑みを浮かべるママ。

「いえ、僕の方こそいつも美味しいご飯をいただいてありがとうございます」

完璧な王子様スマイルの奏多をチラリと横目で見る。

奏多は愛想よくママと玄関先で雑談している。


「奏多くん、晩御飯食べてく?
さっきの肉じゃがは明日も食べれるし。
今日も肉じゃがになっちゃうけど」

ママの言葉にギョッとする。

「いえ、流石にそれは申し訳ないので……」

断る奏多にホッと胸を撫で下ろす。

「やだ、遠慮しないで!
柊もパパも今日は遅くなるみたいで、私達二人だけの寂しい夕食になるところだったのよ、ね、よかったらどうぞ」

「……じゃあ、お言葉に甘えて……」

「ええ、どうぞ、上がって!
ごめんね、たいしたものじゃないけれど」

「いえ、孝子おばさんの食事はいつもすごく美味しいです」

完璧な誉め言葉をスラスラ口にする奏多。

「準備するから適当に座って待っててくれる?」

「じゃあ、僕、よかったらその間、楓さんのレポートをみましょうか?」

ニーッコリと笑う奏多に背筋が凍りそうになった。

僕?!

しかも、今から?

「い、いい、いいです!」

全力で辞退すると。

「あら!よかったじゃない。
教えてもらいなさいよ、楓。
ありがとう、奏多くん。
助かるわぁ。
これからも良かったら、時間がある時に是非お願いできないかしら?」
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