彼の甘い包囲網
「内緒、って……」

その仕草が妙に色っぽくて、うっすら赤くなった頬を隠すように目を逸らす。

パッと腕を掴まれて、唇を塞がれた。

柔らかい感触が私の言葉をアッサリ奪う。

「ちょ、奏多……何、急に!」

「俺とお前は……二人きりで長い時間、会えないだろ。
おつかいで来ているお前を一人暮らしの俺の家にあげるわけにいかないし。
こういうチャンスは有効に使わなきゃな」

少しだけ唇を離して奏多が私の瞳を覗き込む。

奏多の長い睫毛が触れそうな位の近い距離。

紅茶色の瞳が揺れる。


「……え?」

「何?」

「奏多が私をいつも玄関先で帰してたのって……」

「当たり前だろ。
孝子おばさんや柊の信頼を失うわけにいかないだろ。
近所の目だってあるし」


私の頬にソッと触れながら奏多が囁く。

……そんなこと考えてたんだ。

「……二人きりになったらお前に手を出さない自信、正直ないし……本当は俺だけのものって印を刻みたくてたまらない。
……お前のこと、大事にしたいのに傷つけてしまいそうで恐くなる」


熱く潤んだ瞳が私を射抜く。

心臓が壊れそうなくらい速いリズムを刻む。


「……お前が何より大事だから大切にしたい。
でも近くにいたら抱き締めたいしお前に触れたくてたまらない」


苦しそうに吐き出される言葉にこもる熱が私を困らせる。

触れられた頬が熱い。


「……手、出してるじゃない。
き、キスいつもする、し……」

奏多の告白にどうしていいかわからず、憎まれ口のように話す私を。

奏多は苦笑しながら見つめた。
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