彼の甘い包囲網
その日は意外と早くにやってきた。

奏多にレポートをみてもらいつつ、毎日を過ごし、紗也や鈴ちゃんと遊ぶ間に、夏休みはあっという間に終わってしまった。

まだうだるような残暑が続く毎日。


そんなある日。


珍しく早くに帰宅をしたパパとママ、私で夕飯を食べていた時だった。

柊兄は留守にしていた。


「もう冷麺も終わりねぇ」

ママがポツリと呟いた。

「もう来月十月だもんね……まだまだ暑いけど……」

冷麺、作るの簡単なんだけどねぇ、とママが笑った時。

パパが口を開いた。


「二人に報告しなきゃいけないんだけど……来月から札幌に転勤になった」


パパの爆弾発言に。

ママと私の箸を持つ手が止まった。


「……え?」

「ええっ!!
パパっ、札幌ってあの札幌?
どうしましょう……車、運転できないわ……」


ママは現実的なことを考えていたけれど、私は頭が真っ白になった。

札幌?

北海道?

現実感が全くない。

札幌なんて数年前に家族旅行で訪れたきりの場所だ。

地名にも風景にも全く馴染みがない。

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