彼の甘い包囲網
「……まだ柊には報告できてないが、柊はこっちに残らせようと思う。
就職のこともあるし、な。
アイツも動きたくないだろうから。
……楓はどうする?
柊とこっちに残るか?
パパが単身赴任するということもできるが……」

パパは困惑した表情を浮かべた。

恐らくパパ自身も悩んでいるのだろう。

縁なしフレームの眼鏡のブリッジを押し上げながら話すパパに。

ママはアッサリ言った。

「私は付いていきたいわ。
札幌に住むチャンスなんてなかなかないし。
何よりパパは家事が苦手だから心配だし。
……でも楓は、ゆっくり考えなさい」

「そうだな。
それがいい。
悪いな、楓」

パパが申し訳なさそうに言った。

私はただ頷くしかできず、半分程残っていた冷麺の味もわからなくなってしまった。



その日の夜遅く。

自室で茫然としていると扉がノックされた。

「楓?
入るぞ」

カチャリ、とドアを開けてお風呂上がりの柊兄が顔を出した。

髪はまだ濡れて、濃い色合いになっている。


「起きてたか?」

そう言ってボスッと私のベッドに腰かけた。
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