彼の甘い包囲網
「……蜂谷さんと会えないこと、寂しくないの?」

優しく諭すように紗也が私に尋ねた。

「……そういう約束だから」

答えにならない返事を返す。

「奏多から離れて考えるって」

俯く私に。

鈴ちゃんが無邪気に話した。

「でも、楓ちゃん。
蜂谷さんと一緒で、蜂谷さんのことを忘れてる日なんてないよね?」


責めるでもなく。

問い詰めるでもなく。

言われた言葉にビクッと肩が上がる。


「だって、楓ちゃん。
そのネックレス、着けていない日、ないよね」

明確な指摘に私は何も言えなくなる。

奏多にもらったネックレスは、毎日欠かさず身につけている。

主張するようなデザインでもなく上品なイメージのこのネックレスはいつしか御守のように私の必需品になっていた。
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