彼の甘い包囲網
自覚
「楓!」


人が行き交う空港の到着口。

多くの人が再会を喜んだり、足早にバスや電車の乗り場に向かっている。

三月も半ばを過ぎて。

大学卒業後、私は札幌の両親の元を訪れていた。

時期を同じくして札幌に来てくれた紗也と鈴ちゃんも合流して卒業旅行になった。

紗也と鈴ちゃんは、会社の研修が始まる関係で一足先に戻っていた。


数時間前に発った札幌はまだ雪が舞っていたというのに。

こちらではその片鱗すらない。

自動扉の向こうに広がる眩しい晴れ間に手をかざす私の耳に懐かしい声が届いた。

「楓!」

「お兄ちゃん!」

長身の兄に大きく手を振った。

スーツ姿がすっかり板についている兄は嬉しそうに手を振り返してくれた。


「親父とお袋は元気だったか?」

「うん、お兄ちゃんを心配してたよ。
迎えに来てくれてありがとう。
今日、仕事じゃなかったの?」

「仕事を可愛い妹のために急いで片付けてきたの!
しかも、お前、奏多と充希にばれないようにってどんな無茶ぶりだよ」

私のキャリーバッグを受け取って、グリグリと片手で私の頭を撫で回す。

俺も一応忙しいんだよ、と何故か威張る柊兄に苦笑した。

柊兄と並んで、駐車場に向かう。


「あれ、柊?」


落ち着いた声が背後から聞こえた。

「おー、有澤?
久しぶりだなぁ、お前こんな所で何してんの」

兄は驚きながらも、朗らかに返事をする。

振り返った私の目に、これまた長身のお洒落なスーツ姿の男性が映った。
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