幸せになってね……。
 全ての音が、僕の耳を通り抜けていく感覚がある。どこか遠くで聞こえているような感覚。そんなはずはない。

 ゆっくりと胸に手をあてる。僕の心臓だって、まだしっかりと動いている。


「ちゃんと……うごい、っ!」


 衝撃が身体中を駆け巡り、痺れさせていく。何故か怖い。この痛みは、僕に恐怖を与える。


 ――僕は生きてる!


 こうやって、ここにいるじゃないか。それ以外はないんだ。早く、明日になって欲しい。早く、みゆきに会いたい。

「――みゆき。僕は……僕は、君を……」
 誰もいない部屋。僕の声に、返事はない。誰からも声は返ってこないが、僕の中には響いてくる声がある。


『幸せだよ……空』


 優しいみゆきの声。僕の心に刻まれたみゆきの声。幻でもなんでもいい。僕はそれだけで……。

「愛し――っ!」

 身体に痛みが走る。痛みは、内側からどんどんと広がっていく。病気の痛みとも、薬の痛みとも違う。

 どうして、こんなに痛いのだろう。僕はもうダメなのか? 違う……そうじゃない。
 まだ、頑張らないといけない。もう少しだけ。

「まだ……生きてい、たい」

 涙が自然と流れ落ちてくる。ゆっくりと時間をかけて、僕に染み込んでいく。
< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop