幸せになってね……。
「いらっしゃい……みゆき」
「うん。いらっしゃいましたぁ」

 入ってくるなり、おどけてみせるみゆき。やっぱり今日も笑顔だ。でも少しだけ、いつもと違う。

 ゆっくりとベット脇の椅子に座るみゆきの表情は、なぜか暗い。

「どうしたの?」
「ん……別に」
「そんな事ないよ……変だよ? みゆき」

 僕の声に、黙って俯いてしまったみゆき。

 どうしたんだろう?

 学校に何かあったのだろうか?

 こんな元気のないみゆきを見るのは初めてだ。

「聞かせてほしいな、みゆき」
「……そら……私」

 顔を覆ってしまったみゆきから、嗚咽が漏れ始める。突然の事に僕は声を掛ける事も出来なくて暫くそのままでいると、急に顔をあげたみゆきの瞳から大粒の涙が流れ落ちる。止まらない涙は、綺麗な色をして頬を伝う。

「み、ゆき……?」
「ご、ごめんね」

 涙を手の甲で拭いながら、笑顔を作ろうとしているみゆき。

 何があったのか分からないけど、そんな顔は似合わないよ。だから、笑って欲しい。

「そうだ! 今日はみゆきのたん――」
「っ! やめて!」

 僕の声を遮るようにして、みゆきが抱きついてきた。いきなりの事に驚いてしまったが、みゆきの身体も、腕も、震えていた。

 泣いているから?

 何をそんなに震えているの?

「み、みゆき? ……どうしたの」

 みゆきの身体がビクン、と跳ねるように動く。僕の首元にかかる吐息が乱れ、抱き締めている腕に更に力がこもる。
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