幸せになってね……。
「もう……この、ままじゃ、いけな、いん……だよね」
「……え?」
「空……もう一年――経つん……っ……だよ」

 耳元で聞こえるみゆきの声。だけど、その言葉の意味が分からなかった。

 一年?

 何から一年経つのだろう。

「一年前の……わ、わたしの誕生日に……空は――」

 嗚咽交じりの声。途切れ途切れに聞こえる声が、その言葉が僕を包んでいった。

「……っ!」
「そ、そらっ!」

 頭が痛い。

 激しい痛みに、身体が勝手に暴れ狂う。

 僕の身体を必死に抱き締めてくれている温もりに、声に、次第に痛みが引いていった。

 だけど、やがて鮮明になってくる僕の記憶。

 それは、僕に起きたあの日の出来事。

 やっぱり、認めたくなかった。

 でも、それはできない。

 感じ始めていた身体の異変が、僕に教えてくれる。実感したくなかった現実を――。

「……そっか。僕……やっぱり、死んで、いるんだ」

 みゆきが、息を飲む音だけが聞こえる。それが事実を告げている……そう思った。

「空……私は」

 僕を見つめるみゆきの目は真っ赤で、頬は涙の跡でいっぱい。

 優しくみゆきの頭を撫でる。ゆっくりと、温もりを確かめるように。

「あ、あの日、私が望んだの……」

 みゆきの声が僕を包んでいる。優しく撫でるような声は、僕の心に染み込んでいく。

「そ、そらに、そばに……いて欲しい、て……」

 その言葉で、やっと理解した。

 僕がここにいる理由(わけ)を――。

 僕はみゆきの願いを叶える為に、ここにいる。

 それはみゆきの欲しがっていた、ただ一つのプレゼント。

 だから僕は、ここにいるんだ。

「みゆき……」

 次第に掠れて、遠くで聞こえるみゆきの声。僕の身体が少し変だ。自由がきかなくっている。

「やっ……嫌。空……いっちゃやだぁ」

 流れ落ちる雫が、僕の手をすり抜ける。いつの間にか、僕の身体は透け始めていた。


 ――もう、ここには入れないんだ。


 そう実感したが、なぜか怖いとは感じなかった。
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