秘書室長と鉄壁女子の攻防戦
私の頭の中は、すっかり自分の仕事のことで埋め尽くされていた。
今日も仕事は山積み。
おそらく定時で帰ることは難しいに違いない。
そんなことを考えていたせいか、すっかり長身の男の人の存在を忘れていた。
「倉橋さん、今日残業になりそう?」
てっきり仕事を頼まれるのかとなんの疑いも持たなかった私は、バカ正直に答えてしまった。
「今日は残業になりそうです。急ぎでなければ終わってからでもいいですか?」
そう答えて振り返ると、先程の長身の男の人が表情ひとつ崩さず立っている。
「それで構わない。こちらから迎えに行くから」
「はぁ!?えっ!?一体なんの話…」
「二言はないよな?」
この人、私の慌てぶりなんて全然眼中にないらしい。
「ですから、なんの話…、っていうか、どちら様ですか?」
私にとってあなたは、関わりたくない人だし、巻き込まれたくもないし、興味もないんだけど。
なんて心の中で毒を吐いてみる。