秘書室長と鉄壁女子の攻防戦
「秘書室の近藤真人(こんどう まさと)だ」
彼は終始無表情のまま簡潔な自己紹介をして、また会議室に入っていった。
私は追いかけたい衝動を必死で我慢しながら、廊下に立ち尽くしていた。
今、会議室に飛び込むことなんて出来ない。
中にいる開発部の人たちに変な誤解をされても困る。
私はとぼとぼと歩きながら開発部のフロアに戻った。
デスクに着いて仕事を始めようとするのに、頭に浮かぶのは先程のことだった。
いつもなら、こんな誘いには乗らないし、速攻でお断りだ。
私は同期の菜緒曰く、周りから社内一鉄壁だと言われているらしい。
こういった誘いも告白も、全て断っているかららしいけど。
にもかかわらず、仕事のことだと勘違いした私は、完全に油断していた。
えーっと、誰だったっけ?
記憶を遡って、なんとか名前を思い出した。
近藤真人って言ってた。
秘書室の…?
しばらく考え込んで、ハッと思い出した。
秘書室の近藤真人って、もしかして秘書室長!?
秘書室長なんて、仕事で関わることが滅多にないから、全く気にしていなかった。