秘書室長と鉄壁女子の攻防戦
「倉橋さん、仕事終わった?」
振り返ると、眼鏡をかけた長身の男の人が私を見下ろしている。
ゲッ、すっかり忘れてた。
「まだ仕事中です」
なんとか冷静にピシャリと言い退けた私のことなんて気にもせず、秘書室長の視線はなぜか部長のほうへ向いている。
「部長、倉橋さんをお借りしても?」
はぁ!?借りるってなに!?
私はモノじゃないんだけど!?
ジト目で睨んでも、秘書室長は私のことなんて完全に無視。
「秘書室長が倉橋を?」
「はい」
「あぁ、どうぞ、どうぞ。倉橋、今日はもう帰っていいぞ。お疲れ」
なにかを察知したらしい部長はあっさりと私を秘書室長に引き渡した。
強面の部長はニヤニヤ笑っている。
そういえば、ここは開発部のフロアで、さっきから背中にいくつもの視線を感じる。
「倉橋さん、行こうか?」
秘書室長は周りが見えていないんだろうか?
それとも、こんなふうに視線を集めることに慣れてるとか?