秘書室長と鉄壁女子の攻防戦
「研究室にはまだ連絡してないですよね?」
「まだ」
やっぱりか。
「一之瀬さん、大丈夫ですかね?」
「明日の打ち合わせ、担当は一之瀬だっけ?」
「はい。とりあえず連絡します」
急いで自分のデスクに戻り、研究室に電話をかけた。
『はい。研究室です』
この声は、一之瀬さんだ。
「倉橋です」
『なんだ?』
「明日の打ち合わせ、社長も同席されるそうです」
『あ、そ。それだけか?』
「はい」
ツーツーツー。
切れてる。
「どうだった?」
「部長…」
どうもこうもない。
開発部で一番無愛想な人が担当って、嫌な予感しかしないけど。
「そんなに心配しなくても、一之瀬はやる時はやる男だ」
「はぁ」
部長がそう言うなら、大丈夫なのかもしれない。
開発部って変な人の集まりらしいけど、そのトップが言うんだから、それほど心配することはないのかも。
リーゼント頭に色付き眼鏡の部長の背中をぼんやり眺めた。
「どっからどう見ても、サラリーマンには見えない…」
私はひとり、デスクで呟いた。