秘書室長と鉄壁女子の攻防戦
眼鏡をかけた長身の男の人が私たちを見下ろしている。
その人の後ろには、ウチの会社の警備員がふたり立っている。
年配の警備員だけど、元警察官だって聞いたことがあった。
「あんたには関係ないだろ」
この状況でもナンパ男は引き下がらない。
しつこ過ぎる。
「後ろのふたりは元SPで、あんたなんか、一捻りだと思うけど」
私は何気なくボソッと呟いた。
「す、すみませんでした!」
ナンパ男は踵を返して足早に去って行った。
最初っから、こんなところでナンパなんかするなって言ってやりたい。
「大丈夫だった?」
隣にいる女の子は泣きそうな表情で私を見た。
「すみません!ありがとうございました!誰も助けてくれなくて、困ってたんです」
「無事でなにより。気をつけて帰ってね」
女の子は何度もお辞儀して、その場から去って行った。
さて、私も帰ろう。
駅に向かおうと、足を踏み出したところで、クククッと、どこからか笑い声が聞こえてくる。
「勇ましいな」
頭上から言葉が降ってくる。
「私のことですか?」
「あなた以外誰もいないけど」
なんだか嫌な感じ。
私は長身の人を無視して、ふたりの警備員に頭を下げた。