秘書室長と鉄壁女子の攻防戦
「倉橋、会議室の準備を頼む」
先輩社員に頼まれれば、一番下っ端の私は自分の仕事を途中止めにして、そちらを優先する。
「はい。先に行って準備してきます」
打ち合わせで使う資料の束を抱えて、会議室のあるフロアに向かった。
確か、今日使う会議室はフロアの一番奥の…。
ドアノブを掴もうと手を伸ばしたと同時に、勢いよくドアが開いた。
咄嗟に2、3歩後退りした。
そのおかげでぶつかることはなんとか免れた。
顔を俯けた女性が走って出ていった。
女性の後ろ姿をぼんやり眺めながら、ふと思った。
あの制服って、受付かな?
すれ違ったのは一瞬だったけど、彼女は間違いなく泣いていた。
となると、中に誰かいる?
恐る恐るドアを開けて足を踏み入れる。
長身の男の人の後ろ姿が目に入る。
どうやら彼は窓の外を眺めているようで、私がここにいることに気づいていない。
もしかして、修羅場の現場ってやつだろうか?
まぁ、なにかしらあったんだろう。
けれど、私にはそんなこと関係ないし、興味もない。
さっさと準備に取りかかりたい。
なんせ、今日の打ち合わせには社長が同席するんだから、失敗なんて絶対許されない。
意を決して長身の彼に声をかけた。