秘書室長と鉄壁女子の攻防戦
「あの…」
「まだなにか?」
彼はこちらを振り返ることもせず、低い声で冷たい雰囲気を漂わせている。
「この部屋使うんですけど、いいですか?」
私の言葉を聞いて彼はようやく振り返った。
スーツの胸ポケットから取り出した眼鏡をかけた彼は、驚きの表情で私を凝視している。
おそらくさっき出ていった女性だと思っていたんだろう。
まぁ、私にはどうでもいいことだ。
いいですか?と訊いたくせに、彼の返事も聞かずに私はとっとと準備を始める。
資料をテーブルに並べて、プロジェクターの設置に取りかかる。
ものの数分で打ち合わせの準備が整い、それと同時に開発部の人たちがぞろぞろと会議室に入ってきた。
「部長、私はこれで。なにかありましたら内線で呼んでください」
「倉橋、ありがとう」
強面の部長に労いの言葉をかけられて、そのギャップに笑ってしまいそうになるのをなんとか我慢しながら、会議室を後にした。