「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
「あ、信じてませんね、その顔。インチキって顔してますね」
「だって、わたしにどう信じろって言うの」
「まあ、それが普通の反応ですよねえ」
男がわたしの顔を覗き込んで苦笑いをした。
だけどすぐにあの笑顔に戻って、わたしの方を向く。
「本当ですよ。信じるかどうかはあなた次第ですが」
感情のない声で、男が呟く。
顔には人の良い笑顔を浮かべているのに。
ギャップの大きさが、この男が人間離れしていることをはっきりとさせた。
「わたしはあなたを救えます。過去に戻ることも可能です。さあ、信じてみますか」
男が試すような、促すような口調で言ってくる。
わたしは男から視線をずらして、地面を食い入るように見つめた。
男に見られていると、なぜだかまともに考えられないような気がしたから。
過去に戻る。
それは現実的に有り得ないことだけど、信じてみる価値はあるかもしれない。
このまま生きていても、わたしは何の楽しみも感じず、今日のことを後悔して逝くだけかもしれない。
だったら少しの可能性に試してみたい。