「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
「それじゃあ、お願い」


わたしは重い鞄だけをベンチに残し、立ち上がった。
男もあわせて腰を浮かせる。


「わたしを、過去に戻して」


一緒に立って分かる男の身長。
十五歳のわたしよりはるかに高い。
見たところ百八十センチくらいだろうか。

そんな関係のないことを頭の片隅でぼんやりと考えていると、男の手がこちらに伸びてきた。
最初は「一体何考えてるんだこの男」みたいな雰囲気で後ずさりをしていたが、男の目が妙に真剣だったのでわたしも落ち着くことにした。


「……どうやってわたしを過去におくるの」
「わたしがあなたの額に手を乗せ念じます。詳細は聞かないでやってください。業務秘密なので」


好奇心でそう聞いてみると当たり障りのない答えが返ってきた。
つまらなかったので、そう、とだけ適当に相槌を打った。
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