「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
「あなたが過去に行き触れ合ったもの全ての運命が変わります。あなたにその意思がなかろうと。その対価に値するものは、あなたの持っているものの中では一番大切な「命」なのです」
「……どういうこと?」
「例えば、あなたが歩いているとき、小石が足に当たったとします。すると小石はさっきとは異なった位置へ飛ぶ。そしてその数分後、その小石に少女が躓いてしまう。角を曲がってきたトラックは少女に気付かなく、少女を轢いてしまった」
「……わたしのせい?」
「直接的ではないのであなたのせいとは言い切れませんが、あなたがその少女の、そしてトラックの運転士の運命を変えたのです。つまり、あなたが過去に行くことにより様々な人、物の運命が変わってしまう。その対価にはあなたの命が必要、ということです」
「……へえ」


男の言葉には妙に信憑性があり、思わず頷いてしまう。
だけどそれはとてもおぞましいことだと思った。

だって、過去に行くということで、わたしは様々な人の運命を変えてしまうのだ。

たったそれだけのことで。
たくさんの人の運命が変わる。


「人の人生とはそんなものです」


一オクタープほど低い声で男が呟いた。
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