「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
「それでは」
男が低い声でつぶやく。
それを合図にわたしは全身の力を抜いた。
「いってらっしゃいませ」
心地のよい低音で見送られ、わたしはゆっくりと目を伏せた。
瞬間、頭の中が蛍光色のラインで彩られる。
さっきまで全身を取り巻いていただるさや疲れがどこかへ飛んでいってしまった。
足もついているはずなのにどこか浮いているような感覚だ。
麻薬をやったらこんな風なのかな。
ふわふわとした不思議な感覚を味わいながら、そんなばかみたいなことを考える。
そんな中ふと目を開くと、あの男の姿が見えた。
最後に見えた男の顔は、ひどく悲しそうなだった。