「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
「それじゃあ、いってきます」
「はい、いってらっしゃい」
もうこの家にも帰って来れないんだ。
そう思うとやはり寂しくなって、ずいぶんと玄関から離れられないでいた。
躊躇いもなく命と引き換えに御崎を助けるなんて言ったことを、ちょっとだけ後悔した。
脳内での優先順位は「御崎>わたし」だけど、こういう所帯染みた幸せを感じると少し躊躇ってしまう。
だけど、御崎を助けなかったら、わたしはもっともっと後悔するだろう。
それに、もう時既に遅し。
わたしは過去にいて、十二時に消えることは確実なのだ。
だから、いいのだ。これで。
顔を上げればそこには雲一つないで。
彼を失ってから初めて見た空もこんなだったなぁなんて思いながら、歩き始めた。