「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
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わたしの住む町には、映画館が一つしかない。
わたしは御崎の家から一番早くいけるルートを考え、必死で走った。
御崎のお母さんは、御崎は足が遅いと言ったが、それは大間違いだ。
彼はリレーでアンカーを任されるほどの足の速さの持ち主だ。
五十メートルを九秒で走るわたしなんかと、比べ物にもならない。
はあ、はあ。
わたしは酸素を肺に取り入れようと必死に呼吸をする。
きっとわたしはいま、ひどい顔をしているんだろうな。
踏ん張るために唇を噛み締め、長い髪を振り乱しながら、狂ったように走り続ける。
女の子がするようなことじゃない。
だけど今は「御崎をとめなくちゃ」、それ以外を気にしている必要はない。
今わたしが頑張ることによって御崎が救われるのだ。