「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
「待って、お願い、行かないで!」
「ちょ、おい、そんな大声出すと喉ぶっ壊れるぞ。行くから、声出すな」


御崎がぎょっとしたような顔で振り向き、小走りでわたしの方に近付いてきた。
わたしは使命感に燃え尽き、電信柱に寄り掛かったまま、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
安心感からだろうか、どっと疲れが押し寄せた。


「んで、どうした。そんな必死そうな顔して。誰か死んだか?」


御崎は悪戯っぽい笑みを浮かべて、わたしと同じ目線のところまで腰をおろした。
死んだのは御崎だよ。
そう言いたいのを我慢して、浮かぶ単語を寄せ集め、文に紡ぎ、口にする。


「あのね、お願いがあるの」
「なに?」
「映画館に、行かないで。今日は大人しく家にいて」


わたしの唐突な告白に、御崎は目を真ん丸くした。
それからわたしの顔を見つめて、わざとらしく地面を見つめて、空を見つめて。
ようやく、一言。


「どういうこと?」
「お願い、一生のお願いだからっ」
「悪いけど、俺友達と約束してんだわ。だから、無理。ごめんな」


御崎がもう一度「ごめんな」と言って、立ち上がる。
逃げしてはいけない、そう思い御崎の服の裾を引っ張った。
足が止まり、ゆっくりと振り向く御崎。
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