「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日

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しばらく歩いていると、心もすっかり落ち着き、恐怖などといった感情も消え失せていた。

照り付ける太陽。
人で賑わう商店街。
遠慮がちに肩を寄せ合うカップル。
玩具を強請る子供とそれに困り果てる親。
ぎこちない態度でいらっしゃいませというデパートの定員。

全てが普段通りで、それが優しくて。
わたしのマイナスな感情は、日曜日を満喫している人のプラスの感情に照らされ、蒸発してしまったかのように。

だからわたしも前を行く人たちの話に耳を傾けたり、商店街の本屋で雑誌を立ち読みしたりと、普段と変わらないことをした。

だけどもう終わり。
こんな優しい光景を見ていられるのは、今日で終わり。
だから周りの景色を目に焼き付けておこうと思った。


「……もう終わり、ねえ。」


だけどあまり実感がわかない。
もうすぐで消滅――つまり死ぬといわれても、ピンとこなかった。
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