「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
不思議な気分でなおも街をぶたぶたしていると、耳に小さな機械音が届いた。
最初は自分の腕時計からした音だなんて気付かなく、一体どこからこの音は、なんてきょろきょろしていた。

そういえば、昨日十二時にアラームをセットしたんだっけ。
この時計は、予定の時間の三十分前になると鳴るんだったなぁ。


……あと三十分なんだ。


思わず足が止まる。
死ぬという実感はなかったけど、そのことは知っていた。
だから、やっぱり、少しだけ怖くなったのだ。

思考を振り飛ばそうと周りの景色に目をやる。
すると、なぜだかその風景に見覚えがある。


「あ、ここは……」


三十分前と同じ場所。

自分の行動がおかしくって、思わず笑いが漏れた。

ここは御崎と最後に喋った場所。
やっぱりわたしは御崎のことが好きなんだなぁと思い知らされた。

再び電信柱に寄り掛かる。
電信柱に頬を寄せると、ひんやりとしていて心地よい。
ゆっくりと目を閉じると、まぶたの裏で御崎が笑っていた。

いつも、いつでも、目を伏せればすぐそこに御崎がいた。
御崎はわたしのすべてで、大袈裟にいえばわたしの世界を支配していた人だった。

わたしが今彼に望むこと。
今彼に思うこと。

それは、告白したいとかそういう後悔じゃなくて。
ていうかもう告白なんてどうでもいいから。

もっと生きて。
そんなシンプルなものだ。

わたしのものにしたいとかそういう醜い独占欲なんてどっか飛んでいってしまった。
一番大切なのは、彼が笑っているということ。
生きていることを幸せだと思い、毎日が楽しいと笑っていること。


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