「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
...3
それからわたしはなんとか立ち上がって、また歩き始めた。
走るほどの体力はなかったので、ふらふらと当てもなく歩いた。
すると、見覚えのある家を見つけた。
その家の前には、雨の中佇んでいる人がいる。
「……おばさん」
わたしは、やつれた御崎のお母さんに歩み寄った。
おばさんは虚ろな目でわたしを捉えると、ゆっくりと壊れそうな笑みを浮かべた。
つられてわたしも、無理やり唇の端を上にあげた。
「あなたは、昨日雄一を探していた……」
「風邪、引きます。家に入りましょう」
「見つかった? 雄一は、見つかったかしら」
わたしの言葉を無視して、おばさんはそう聞いてくる。
「ええ……見つかりました」
「よかったわ。一生懸命探していたみたいだから、わたしずっと心配していたの」
「……ありがとうございます」
にこりとおばさんが微笑んだ。
それは御崎が死んだことを知らないかのような、自然な笑顔だった。