「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
それとは反対にうじうじしていて消極的な自分が嫌いだった。
だから自分の命と引き換えに、御崎を助けようと思ったのだ。


それなのに。


「……ありがとう。雄一のことを、そこまで想ってくれて」


俯いたわたしに優しい言葉がかけられる。
はっとして、顔をあげた。

何を一人で先走っているんだ。
おばさんにとってはわたしは、見ず知らずの他人なのに、そんなやつがいきなりこんなことして、いい気分になるわけがない。


「その言葉を聞けて、なんだか心が軽くなったわ。ありがとう、美里ちゃん」


涙を目に溜めながらも微笑んで、おばさんはわたしの手を握り返した。
おばさんの手はさっきと同じように震えていたけれど、その微笑みのぎこちなさが少しだけ薄くなっていて。

わたしの心は、ちょっとだけ温かくなった。


御崎の命を救えなかったわたしだけど。
この人の笑顔を取り戻せなかったわたしだけど。

少しでもおばさんの心が軽くできればいい。

それくらいならわたしにだってできる。
今からでもできる。


御崎にもらったこの命。
無駄になんてできない。
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