「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
『美里には悪いけど、俺、さっき死にそうになったんだ』
御崎が、死にそうになった?
だって、御崎は映画館に行く途中に撥ねられたのであって、わたしは映画館を行くことを阻止できたのに……。
顎に手を添え、考える。
そんなとき、さっきの御崎の言葉が頭の中で響いた。
それにな、俺が今日死ぬってことはもう決められていたことで、覆せないと思うんだ。
もしかして御崎が昨日死ぬことは決定事項で、もう覆せないことだとしたら。
わたしが昨日のあの事故を妨げたとしても、御崎は必ず死ぬ。
違う場所で、違うもののせいで、あるいは昨日の事故と同じようなもので。
それだったら、わたしがしようとしたことは全て意味を持たなくて。
『家に帰る途中、トラックが信号無視して』
御崎の部屋に突っ立つわたし。
机の上の携帯電話の画面はなおも悪戯そうな笑みを浮かべた御崎を映し出す。
御崎の声が、あの愛おしい声が、意味を持たずわたしの耳を通り過ぎていく。