「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日

...5


「美里ちゃん……?」


階段を下りていると、玄関の方で不安げにわたしを見つめてくるおばさんが目に入った。
わたしはすぐに我に返って、慌てて階段を下る。
そしておばさんの近くまで駆け寄ると、頭を下げた。


「すみません! 勝手に家上がり込んじゃって……。ほんと、すみません」


了承も得ずに勝手に人の家にあがるなんて、失礼にも程がある。
顔が、指先が、すべてが熱い。
考えるよりも早くに行動してしまった自分に、猛烈な恥ずかしさを覚えた。


「別に、そんな謝らなくてもいいのよ。でも、どうしたの」
「え、あの……あることを思い出して、それで……」
「表情が明るくなったわ。なんかいいことがあったのかしら?」


ふふ、とおばさんが和やかに微笑む。

よかった。
少し、元気になったみたいだ。
ちゃんと、普通に、笑えている。

安心して、わたしも微笑んだ。
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