「彼」が死んだ日、「世界」が壊れた日
「いつでも来てね。遠慮なんていらないから。きっと雄一も喜ぶわ」
「はい、そうさせてもらいます」
「それじゃあ、車に気をつけてね。ばいばい、美里ちゃん」


おばさんの言葉に見送られ、わたしは帰路についた。

いつのまにか雨は止んでいて、頭上にはやさしい光を放つ太陽がいた。
腕の時計に目をやれば、まだ午前十一時。
そうか、わたしが過去に行っていたという事実は消えたのだから、時間は何も経っていない設定なんだな、などと思いながら重い足を進める。

途中、道端にいくつかある水溜りのひとつに、波紋が広がった。
何か落ちたのだろうかと一瞬考え、すぐに自分の持つ鞄から雫が垂れたのだと分かった。

教科書の詰まった鞄。
それに水分も足されて、鞄はとても重いものになっていた。

ああ、これは完璧に濡れてしまっている。
たぶん中身も全滅だ。
……使い物にならないなぁ、きっと。


「お母さんに怒られるだろうなぁ……」
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