放課後○○倶楽部
 六畳ほどの部屋の中――出入り口の扉がある壁面を正面に、その扉の横には小さなシンクとガス湯沸し器があってワンドアの冷蔵庫まで完備していた。

 そして右側の壁面にはこの部屋に似つかわしくない大きな二人掛けのソファが置かれ、そのソファの横には幅九〇センチ程のリビングボードの上に幅ピッタリの大きな水槽がある。かなり大型の熱帯魚でも飼育出来そうだが、水槽は空で魚は泳いでいない。

 次に左側の壁面には大きな絵画が掛かっており、その下には観葉植物が五つ整然と並んでいた。

 観葉植物は手入れが行き届いているようで、俺達が来る前にも水をあげたのかきれいな緑色をした葉には水滴がついている。

 最後にうしろは水色のカーテンが壁一面を占めており、それを開けてみると壁の変わりにガラス張りになっていた。しかも、開閉が出来ない仕組みになっているようで鍵はなく、ソファがある壁側に邪魔にならないように本棚もない簡素なデスクが一つ置かれていた。

 他にも小物が部屋の中には乱雑に置かれているが、テレビや時計、ラジオといった時間や情報を得るようなものはこの部屋にはない。

 ただ、部屋の中央にあるテーブルの上には昔懐かしい黒電話が鎮座しているが電話線が繋がっていないので、これはオブジェか何かだろう。

 ついに言えば、俺と律子ちゃんの携帯もなくなっている。これは外部との連絡を取らせないためだろうが、かなり用意周到な事だ。

 それに俺達を運んできたのなら一人ではないはず。複数犯の可能性が濃厚だが、俺達を捕まえる事に何のメリットがあるのかがさっぱり分からない。

「伏峰先輩……」
「大丈夫だよ。すぐに出れ――んっ?」

 律子ちゃんを落ち着かせようとしていた俺の耳に、突如雑音混じりの音が飛び込んできた。

『こんばんわ、伏峰……そして、梅津さん。下民のお二人にはお似合いの部屋ですわね、お、ほほほっ』

 その声はどこか感情を押し殺したように聞こえ、部屋の中へと響いていた。


 ……どこから聞こえているんだ?


 俺は部屋の中を見渡してみたがスピーカーのようなものが一切なく、四方から響く声に出所が掴めなかった。
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