放課後○○倶楽部
「何故、お皿の上で立っているのかな?」
「飾り付けに凝ってみました。結構、バランス取るの難しかったんですよ」

 いや、立たせる必要があるのだろうか?

 お皿の上には醤油がしみ込んだ黒光りするボディを惜しげもなく晒し、一〇本ある足(実際は『腕』らしいけど)を器用にくねらせてポーズをとっているイカの周りには色とりどりの野菜が茹でられて添えられていた。


 ……すごいな、こりゃ。


 ある意味芸術だがこの姿焼きを食べろと言われても、この妖しげなポーズを前にしては食欲が吸い取られているような気がする。まるで某ロープレゲームに出てきそうな踊りだな、これは。

「さあ、温かい内にどうぞ」
「あ、ああ……律子ちゃん、さすがにこのままでは食べれないので、切ってくれるかな?」
「え? そ、そんなっ……イカさんを切るなんて! そんなかわいそうな事、出来ませんよっ」

 そんな事を言っていては食べれないではないか。しかも、先ほどシンクでイカ相手に格闘していたのはどこの誰だって話である。しっかり焼き上げてここまで料理をしたのであれば、最後まで食べてあげるのが礼儀というものだろう。

 しかし、本当に嫌がっているようで目に涙まで浮かべてお皿を抱え、俺を睨んで「先輩の人でなし」と言い放ち、イカに話し掛けていた。


 ……壊れたな。


 今の律子ちゃんを相手するにはかなりの精神力が必要になりそうなので、ここは無視してヒント探しをした方がよさそうだ。

 と、その前に――完全にイカの登場で忘れていた事を今思い出した。

 それは盆栽の雑誌を揃えているときに気付いたのだが、この雑誌は去年の雑誌で一月号を一番下にして順番に積み重なっていたのだが途中に抜けている月がある事に気付いた。
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