俺様外科医に求婚されました
「お前が相沢と結婚して幸せだったら。今でも一緒にいたのなら。俺はきっと、こんな想いを口にはしなかったと思う。自分だけの胸の中に抑え込んで、我慢出来てたはずだ」
諒太から香るシトラスの匂いに、止まりかけていた涙がまた溢れてくる。
握り締めた手が、諒太の背中へと動いてしまいそうになった。
「でも、そうじゃなかった。結婚なんてしてなかった。そんなことを知らされて、我慢なんて出来ると思うか?俺は出来ない。出来るわけない。いや…しない」
諒太がそう言った直後、私を抱きしめていた諒太の腕から力が抜けた。
そして私の両頬をいきなり両手で包み込むと、うつむいていた私の顔を強引に持ち上げた。
涙で滲む視界の真ん中に、諒太の顔がぼんやりと映る。
「自分勝手だと思われてもいい。ストーカーだと呼ばれてもいい。我慢なんてしない。だって俺は…」
諒太はそう言うと、持ち上げたままの私の顔をジッと見つめる。
「今でも変わらず、お前が好きだから」
そしてその言葉を聞いた私が、瞬きしたその瞬間。
その顔は一瞬で近付き、唇が…重なった。
突然だった。
強引だった。
胸が苦しかった。
でも、愛おしかった。
抱きしめたかった。
本当はずっと会いたかったと、言いたくなった。
私たちしかいない世界なら、私はきっと諒太の背中に手を回しただろう。
そしてぎゅっと、強く抱きしめていただろう。
だけどそんな世界は、どこにもない。
世界はとても広くて、でも、とても狭くて、残酷で。
私たちのいる世界は、遠い、別世界なんだ。