俺様外科医に求婚されました
バタンとドアが閉まった直後、体中の力が抜けた。
玄関にしゃがみこんだ私は、靴を脱ぐことも出来ずにその場でうずくまった。
するとその瞬間、ふと鼻先に髪が当たり、そしてそこから…微かに諒太の匂いがした。
ふわりと鼻をかすめる、シトラスの香り。
抱きしめられたせいだろうか。
その匂いは私の髪に微かな残り香を漂わせていた。
諒太を振り切って、私はタクシーに乗って家まで帰ってきた。
強引なキスからも、掴まれた手からも。
逃げるように帰ってきたのに。
この残り香のせいで、心がまた掻き乱されていく。
一瞬でも、迷ってしまった自分がいた。
諒太の言葉を受け入れてしまいそうになった。
心を奪われてしまいそうだった。
思わず抱きしめてしまいそうだった。
あともう少しで、理性を失ってしまうところだった。