俺様外科医に求婚されました
やってしまったと思った。
そういえば、聞いていたのだ。
運ばれてきた患者の中に、亡くなった人がいることを、仕事中に耳にしていた。
それなのに私は…。
聞いてはいけないことを聞いてしまったと、すぐに後悔した。
部外者が踏み込んではいけない領域。
そこに土足で、踏み込んでしまったと感じた。
いくら疲れているとはいえ、何も考えずに口にするような言葉ではなかった。
この人は、脳神経科の外科医だ。
そんな先生に対して、あまりにも…軽率過ぎた。
「すみません、余計なこと聞いて」
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
軽く口にした言葉を、すぐに後悔した。
「いや。俺の方こそすまない、こんな言い方したら空気が暗くなるってわかってるのに。ごめん、らしくないよな」
大和先生はそう言うと、うつむき気味に小さく息を吐いた。
らしくない。
それは確かにそうかもしれない。
私の知っているこの人は、いつもはつらつとしていて。
どこか自信に満ち溢れていて。
だからこそ。
こんな弱腰な姿を見るのは初めてのことだし、正直戸惑った。
でも、考えるよりも先に勝手に口が動いていた。
「何で謝るんですか?らしくない姿も、たまには良いと思います。人間らしくて」
私がそう言うと、前を向いていた大和先生の横顔がゆっくりとこちらに向く。
「…そうか?」
「はい」
そして言いながら私が頷くと、悲しげだった表情がほんの少しだけ…緩んだ気がした。