俺様外科医に求婚されました
それなのに当の本人は。
「だとしたら、そんな心配はしなくていい」
涼しい顔でそんなことを言う。
「いや、しなくていいって言われても。そんなの…無理です。院長や理事長ももちろんですけど、周りにだって何を言われるか」
「何も言わせない。俺は言われた通り、決められた道を進んできた。病院を継げるように、ちゃんと医者にはなったんだ。恋愛にまで口を出される筋合いはない。周りなんて関係ない、恋愛は自由だ。付き合う相手も結婚相手も、俺は自分で選ぶ」
真っ直ぐな瞳に、心が揺れる。
無理な話だとわかっているのに、何故か迷いが生まれていた。
「理香子みたいな女は初めてなんだ」
「初めて?」
「俺が大和国際病院の跡継ぎだってわかっても、そのことには無関心っていうか、良い意味で態度が変わらないっていうか。普通の女はコロッと変わるのに、おまえだけは変わらない。だから面白い。俺を、一人の男として普通に見てくれてる気がするから」
私の手に、温かい手が重なる。
そしてその手は、また私の心を揺さぶった。
「だから」
繋がった手に、ぎゅっと力がこもる。
「だから好きになったんだ」
ストレートな言葉だった。
好きになったと、ハッキリ言われてしまった。
それは冗談ではなさそうで。
むしろ、真っ直ぐで誠実で。
揺れていた心が……あっというまに、掴まれてしまった。
恋愛なんて、しばらく出来ないと思っていた。
してはいけないと、ずっと自分に言い聞かせていた。
それなのに、どうしてなんだろう。
「俺は、理香子がいればそれ以外は何もいらない」
真っ直ぐな言葉は、私の心にスーッと溶けるように広がって。
「絶対に大事にする。約束する。だから余計な心配はせず、俺と付き合え」
そんな風に言われたら、気付いたら気持ちは覆っていて。
「…余計な心配は、しますけど」
「けど?」
「わかりました。そこまで言うなら…付き合ってあげます」
恥ずかしさを隠すように、私はふざけてそう返事をした。