俺様外科医に求婚されました
「だからすぐに堂々と交際宣言なんてしたんじゃないかな。病院内で噂になれば理事長の耳にも入るのも時間の問題だろうし、話をするきっかけも生まれるだろうから」
「ちょ、ちょっと待ってください」
確かに結婚を前提にとは言われたけど。
婚約させられそうになっていたなんてことは全く聞いていない。
「そんな話聞いてなかったんで…正直驚いたっていうか…そもそもいいんでしょうか?」
「いいとは?」
「このままお付き合いをして、大丈夫だと思いますか?」
そう言うと、相沢先生はクスッと笑う。
「望月さんは、大和のこと好き?」
「えっ……と…」
「ははっ、わかりやすいな。最初は結構毛嫌いしてそうだったのに。いつの間にかだな」
「私も、正直自分でビックリしてます。まさか付き合っちゃっただなんて」
「まぁ、でも。理事長が二人の関係を知ったら遅かれ早かれ色々問題は出てくると思う。結構厄介なことにもなるかもしれない」
厄介なこと?一体どういう意味?
「でも、その時は大和がちゃんと守ってくれる。俺は理事長には散々世話になってきた立場だから、あの人に逆らうことは出来ないけど。出来ることは、協力したいと思ってる」
相沢先生はそう言うと私に笑顔を向けた。
「でも、体調でも悪いの?元気がなかったのは気のせいではなさそうなんだけど」
「いえ、体調は良いですよ。ただちょっと色々あって…今日はボーッとしてしまってて」
「色々?」
そう聞き返されると、何故か自然とため息がこぼれた。
「ちょっと色々あったってわりにはなかなか深刻そうだけど。何か力になれることがあるなら話してよ」
「…いや、本当に全然大した話じゃないんで」
「まぁ、偉そうに話してとか言っても俺は女心とかわからないしなー。わかることって言ったら、脳神経の医療知識くらいしかなかった。ごめんね、こんなんじゃ役立たずなのにね」
脳神経の…医療知識。
その言葉に、私は何故か動揺していた。
だけど、諒太にだってまだ話せていないことだ。
相沢先生に先に話すようなことではない。
「いえ。ありがとうございます。その医療知識を教えて欲しい時には是非お願いします。私の方は本当…たいした話じゃないんで」
「そっか、わかった。わざわざ引き止めちゃってごめんね。それから大和のこと、これからもよろしく頼むね」
相沢先生はそう言うとゆっくりとベンチから立ち上がり、じゃあと病院に戻っていった。
「っていうか…婚約って」
一人になってそう呟いた私は、聞いてないしと心の中で再び思いながら帰路についた。
お兄さんのことや、医者になるまでのことは話してくれてたけど。
本当に大丈夫なの?このまま付き合ってていいの?
妙な胸騒ぎがするのは気のせいだろうか。
ただの思い過ごしだといいんだけどーーー。