俺様外科医に求婚されました



「今日はよろしくお願いします」


金曜日の休日。デイサービスの迎えの車が家の前に到着すると、スタッフさんにそう挨拶をした私は母を乗せて走り出す車を見送った。

認知症対応型のデイサービス施設を利用するのは、週に一、二回程度だ。

伯母さんの負担を減らすためにも最近は火曜と金曜の週二回の利用が定着してきている。

今日は私が休みだけど予定が入っているということもあり、母には申し訳ないけれど変わらず預けることになってしまった。


罪悪感にかられながらも母が乗る車が見えなくなると、私は腕時計に視線を落とした。

まずい。私もそろそろ駅に行かなきゃ十時の待ち合わせ時間にギリギリだ。

慌てて走り出した私は急いで駅まで向かった。


今日は諒太に予定を空けておけと言われていて、昨夜帰宅したタイミングで明日は十時に迎えに行くと電話がかかってきた。

私も相沢先生から聞いた話を直接ちゃんと確認したかったし、今日は予定通り会うつもりでいた。

だけど家の前まで迎えに来られるのは困る。
そう思った私は待ち合わせ場所を最寄り駅の梅島の駅前にしてもらった。

また伯母さんに見られでもしたら何を言われるかわからないし、出来るだけ家からは離れた場所にしたかったからだ。


とはいえ、十分程度でも全力疾走はなかなかきつい。

待ち合わせ時間に遅れたくない一心で走ってきたけれど、駅前で諒太の車を見つけた時には息切れ状態で。

乱れる呼吸を整えながら車に近付くと、私に気付いた諒太は驚いた様子で車から降りてきた。


「どうした?何があった?」

「えっ?はぁっ…」

「顔は赤いし、何でそんなに息が上がってるんだ」

「はぁっ…何でって。走ってきたからですよ…」

「走ってきた?何で」

「や、待ち合わせが十時って言ってたからです…」


言いながら腕時計を確認する。
わ!すごい。なんとかギリギリセーフだ。


「見てください!ほら、十時ぴったり!すごくないですか!?」


ほっとしたのと間に合ったのとで何故か変にテンションが上がった私は、腕をぐいっと諒太の目の前まで上げて腕時計の時間を見せた。


すると、次の瞬間。


「ハハッ、何なんだよマジで」


と、諒太は笑って。
何故かいきなりその場で抱きしめられた。


< 169 / 250 >

この作品をシェア

pagetop