俺様外科医に求婚されました
「ちょっ、まだ午前中ですよ⁉︎ほら、人だって歩いてるのに…」
言いながら、抱きしめられた腕の中で抵抗する。
だけどその腕は緩むどころかさらにぎゅっと強くなって。
「いや、走って来るとか可愛い過ぎだから」
そう言うと、諒太は私のおでこにそっとキスをした。
まだ会って数分なのに…付き合った途端、スキンシップ激しくなってない⁉︎
「じ…時間だけは絶対守るようにって、小さい頃から母に言われて育ったので…一分でも遅れたくなくて」
昔から、一分でも一秒でも人との約束には遅れちゃダメだと。口酸っぱくそう言われてきた。
だから時間を守ることは当たり前のことで。守れないなんてことは絶対ありえない。
いつのまにか、そういう自分になっていた。
そう。だから走ってきたわけなんですが。
「生まれてから一度も遅刻とかしたことないし…なんていうか…無遅刻を死守したかったんです」
そう言うと、諒太はまたクスッと笑って私をぎゅっと抱きしめた。
「無遅刻を死守か。本当、いちいち可愛い過ぎるよ理香子。困る、本当困る。俺以外の男とは話さない方がいい」
「…何なんですかそれ」
母との約束は、これから先も守れる自分でいたい。
例えその約束を、母がもう忘れてしまっているとしても。
これだけはずっと、守り続けていきたいと改めて思った。
「よし、じゃあいくか」
「はい…」
やっと腕がゆるむと、諒太は助手席のドアを開け私を先に車に乗せてくれた。
今さら思うのもなんだけど、こういうスマートな行動がサラッと出来るところはカッコイイ。
運転席に乗り込んだ諒太をチラッと横目で見ながら私は改めて感じる。
やっぱり…カッコイイんだよな。
まつ毛も長いし横顔のフェイスラインだって綺麗だし。
整い過ぎてて羨ましい。
「そんなに見られてたらドキドキするんだけど」
へっ⁉︎
その声にハッとなった瞬間、前を向いていた諒太の顔がこちらを向いて。
瞬きする間もないくらいの早技で、いきなり私にキスをした。
「…っ⁉︎」
「理香子がキスしてほしそうに見つめてくるからー」
「わっ、私は…別に…そんな風には見てなかったんですけど」
「ハハッ、付き合ったっていうのに相変わらず冷たいなー」
諒太はそう言って笑うと爽やかにハンドルを握って車を発進させた。