俺様外科医に求婚されました
「失礼いたします」
襖の向こうから聞こえた声と、スーッと開いていく襖。その光景に、私は思わず息を飲んだ。
「お連れ様がいらっしゃいました」
頭が真っ白になりながらも、私はすぐに慌てて立ち上がる。
本物の…院長と、理事長だ。
「来てくれて、ありがとうございます」
隣に座っていた諒太も立ち上がり、二人に向かってそう言葉をかける。
私もその言葉を聞いて、頭を下げた。
「わざわざ山崎を使うなんて思わなかったけど」
「すみません、他に良い場所が浮かばなくて。ここなら料理も美味しいし、母さん達も馴染みのある場所だったので」
「そう…まぁいいわ、久しぶりに料理長の顔も見られたし」
「はい」
家族なのに、ぎこちない会話。
諒太が諒太じゃないみたいで、妙な違和感を覚えた。
「とりあえず、座っていいかしら?今日は朝から仕事が立て込んでたから疲れてるの。それから、あなたはもういいわ」
理事長はそう言うと、後ろに立っていたお店の従業員の方に上着を渡し、一番最初に腰を下ろした。
そして、私達をチラッと見上げると。
「あなた達も座りなさい。あなたも」
と、隣に立っていた院長にも目配せをした。
院長と諒太が座ろうとするのを見て、私も改めてお辞儀をしてから座らせてもらった。
「料理はいつものコースなの?」
「はい、料理長にお任せしてあります」
「そう」
会話はそこで途切れ、静かな空気に包まれていった。
諒太も緊張しているのか、テーブルに置かれているお茶を隣で一気に飲み干した。
すると、次の瞬間。
「どうした諒太、かなり緊張してるじゃないか」
院長がそう言って、諒太に向かって微笑んだ。