俺様外科医に求婚されました
だけどそんな心構えは、ものの数秒で打ち砕かれていく。
「出身大学はどちらなの?」
「…K大学です」
「K大って、二流どころか三流大学ね。ご両親は何をされている方?」
「…えっと、父は幼い頃に病気で亡くなっていて」
「あら、母子家庭?」
「…はい」
次々に並べられていく質問。
そのせいで、諒太にもまだ伝えられていないようなことをこんな状況で話すことになってしまい…
「それでお母様は?何をされている方なの?」
そしてついに、母のことまでもを話す流れがきてしまった私は、一旦落ち着こうと深呼吸した。
ここまできたら、きちんと話そう。
きっかけはどうであれ、いずれは打ち明けなきゃいけないことだ。
覚悟を決めた私は、真っ直ぐに理事長に向き合った。
だけど…
「そんなこと聞いてどうするんですか」
諒太のそんな声が、私よりも先に発せられて。
「理香子の親が何をしてるとか、理香子の出身大学がどうとか。そういうことは今関係ないでしょう」
強い口調でそう言った諒太の横顔は、理事長を真っ直ぐに見つめている。
「関係ないって、何を言ってるの?育った環境や家柄はとても大事なことよ?」
「それは母さんにとって大事なだけで」
「だいたい、どういうつもりなの?あなたにはレイナさんっていう婚約者がいるのに」
「婚約者?俺は婚約なんてしないって何度も話したはずです。勝手に話を進めているのは母さん達でしょう?俺だってレイナさんだっていい迷惑で」
「迷惑?それは違うわ。レイナさんはあなたと早く正式に婚約して、早く結婚したいと言ってる」
「そんなわけ…」
「先方の準備は進んでるの。だからこんな看護助手との交際は早くクリーンにしなさい」
目の前で繰り広げられる押し問答。
助け船を出したいとは思っても、理事長のあまりの剣幕に、間に割って入ることは出来ず。
私はただ黙って、二人のやりとりを聞いていることしかできなかた。
「嫌です、レイナさんとは婚約も結婚もしません。彼女とも別れるつもりはないです」
「そんなの絶対に認めないわ。ねぇ?あなた。だいたい看護助手と色恋沙汰だなんて、そんな恥ずかしい話ありえないわよね?」
理事長はそう言うと、ジロリと院長に目を向ける。
先ほどまでは笑顔の浮かんでいた優しそうな院長の顔。その表情が、理事長の言葉で凍り付くように固まっていく。
そして、覇気のない声色で。
「…あぁ。そうだ…な」
俯いた院長は、言いにくそうにそう口にした。