俺様外科医に求婚されました
静まり返る空間に、居心地の悪さだけが漂っていく。
余計なことをしてしまった。
出しゃばってしまったばかりに、理事長を怒らせ、院長まで巻き込み、諒太が設けてくれた大事な席を壊してしまった。
「…すみませんでした」
謝っても、遅いとはわかっている。
でも、謝らずにはいられなかった。
「どうして君が謝るんだ。見苦しいところを見せてしまってこちらの方が申し訳ないよ。諒太も、すまなかったな」
「俺の方こそ、すみません。無理を言って母さんを連れて来てもらったのに」
「いや、結局は何の力にもなれなかったわけだから。不甲斐ないし、情けない。でも、これ以上機嫌を損ねたら厄介なことになりかねない。車で待っているだろうしそろそろ追いかけないと」
院長はそう言って立ち上がると私の方に目を向けた。
「理香子さん、だったかな?」
「はっ、はい」
「私も先に失礼させてもらうけど、今日は二人でゆっくり食事していきなさい。ここの料理は本当に美味しいから」
「えっ…あっ…あ、ありがとう、ございます」
「それから、一筋縄ではいかないだろうけど時間をかければいずれは妻もわかってくれる時が来ると思う。そうなるよう、私も出来るだけ力になるつもりだ」
院長はそう言うと突然改まったように咳払いをして。
「祥太の分まで努力して、医者になってくれた立派な息子です。今まで辛い思いをさせた分、これからのあらゆる選択は自分自身で決めて、自分で選んだ人と、幸せになってもらいたい」
向き合った院長はそう言いながらゆっくりと頭を下げる。
「諒太を、よろしくお願いします」
そして私に、ハッキリとそう言ってくれた。
驚きで、頭の中が真っ白になった。
よろしくお願いしますって…院長は、私達の交際を認めてくれたってこと?
そういう意味だよね?
理解した途端、私も慌てて頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
そして精一杯の気持ちを込めて、院長にそう伝えた。