俺様外科医に求婚されました
「さっき、母さんが父さんに言ってたあの女と重なるとか…看護助手って言葉、理香子も聞いたよな」
「えっ……まぁ…聞いたというか…聞こえてしまったので」
でもそこは聞いてしまったとはいえ、大人には色々と事情があるのだとあえて触れないでおこうと思っていた。
だけど諒太は律儀というか真面目なのか。
「あの言い方じゃ、理香子も勘付いただろうけど。父さん昔、看護助手の女性と色々あったみたいでさ」
苦笑いを浮かべながら、そんな話を切り出してきた。
「それも、兄貴が事故に遭う直前の頃の話だったらしくて。母さんも、身近なところでそんなことがあって相当嫌な思いをしていたところに兄貴のことまで重なって。不安定な感情の行き場がなかったんだと思う」
「…そうだったんですか」
「だから、多分何でも良かったんだよ。当時の兄貴の件は、何かのせいに…誰かのせいに。俺のせいにすることで、自分自身を保っていたんだろうなって。大人になった今は、そう思えるようになった」
諒太はそう言って優しく目を細める。
「きっと母さんは、弱さを見せることが出来ない人なんだよ。強がりで、意地っぱりで。寂しさや悲しみを憎しみに変えてしまったから…今でもまだ、父さんのことを許すことが出来なくて。俺を責めたことも、間違いだとは認めたくないんだと思う」
諒太は…強い人だ。
自分も辛かったはずなのに、広い心で理事長を受け止め、そして深く理解している。
それなのにどうして理事長は…。
そう思うと歯がゆくて、ただただやるせない気持ちになった。
「でも、いつかは。ちゃんと分かり合える日が来るって信じてたいんだ。あんな人でも、俺の母親だから」
「…そうですね」
「いつか来るよな?…そんな日が」
寂しげに呟く諒太を、たまらずそっと抱きしめた。