俺様外科医に求婚されました
しばらくは、そんな何気ない日々が続いた。
母のことはまだ諒太には伝えられていなかったし、理事長のことや諒太の婚約話がどうなったのかは気になっていたけれど。
院長のおかげなのか、理事長はああは言っていたけれど、黙って目を瞑ってくれているのか。
特に何の動きもないまま時は流れ。
諒太とは毎日病院で顔を合わせる中、時間が合えばランチタイムを一緒に過ごしたり。
勤務が終わる時間が近ければ、車で家の近くまで送ってくれたり、時には食事をしたり。
夜は電話をして、メッセージのやりとりは毎日眠る直前まで続いた。
休みを合わせて、またデートもした。
緩やかに、穏やかに。
幸せな時間を、私たちはゆっくり、大切に過ごしていた。
だけど…そんな時間は、唐突に終わりを迎えた。
院長や理事長と顔を合わせてから、ちょうど一カ月が経とうとしていた頃。
勤務中、伯母さんから突然病院に連絡が入った。
そんなことは、初めてのことだった。
電話に出ると、少し出かけていた間に部屋で寝ていたはずの母がいなくなっていたと伝えられた。
伯母さんは二時間ほど家の周囲や行きそうな場所を探したけれど、見つからないため今警察にも行ってきたところだと言った。
私は仕事を早退させてもらい、夕方四時過ぎには家に戻ることができた。
「結構探したんだけど、本当どこに行っちゃったのかしら。多分、上着も着ないで出てしまってるし…」
帰ると、伯母さんは疲れきったような顔で私にそう言った。
「すみません。私も行きそうなところ探してきます」
私はそう言うと、母のダウンコートを手に家から駆け出した。
冷たい風が吹き荒れる、2月の寒い日だった。
とにかく母を見つけなければと私は日が暮れてからもずっと、無我夢中で探し続けた。
だけど夜の十時を過ぎても母は見つからなかった。
家にも戻ってくることはないまま、足取りもつかめず。
一体どこに行ったのだろう。何をしているんだろう。どこかで凍えてないだろうか。
そう思いながら、一人夜道を歩いていた。
…その時だった。